若者が憧れるスタイリッシュな街として、数多くの映画・ドラマの舞台にもなっている三里屯。日本で言えば、大使館が集まる麻布・広尾に日本有数の歓楽街である六本木の要素を加え、そこに六本木ヒルズと表参道ヒルズを一カ所に集めたような場所だと言えばわかりやすいだろうか?
三里屯は1960年代から大使館や外国人専用の居住マンションが建設され、三里屯一帯は外交官たちの居住エリアとして発展してきた。現在、約80程の大使館が集中する三里屯は北京の最も古いバーエリアとしても知られている。
08年からは大規模開発が行われ、現在は19の低層階ビル群からなるショッピングモール「三里屯VILLAGE」や居住区兼オフィス、ショッピングモールの複合高層ビル群の「三里屯SOHO」が立ち並び、オシャレな若者たちがウインドウショッピングをしたり、バーやカフェ、レストランで集う賑やかな様子が見られる。
そんなきらびやかな三里屯VILLAGEやSOHOビル群を一望できるのは、三里屯南街に位置する雑居ビル屋上にあるルーフテラス・バー「kokomo」。
SOHOなど三里屯の風景が一望できるルーフテラスバー 夜景も美しい
隣接するモダンビルとは対照的に、雑多な雰囲気を残すこの一帯は、古びた低層雑居ビルや公団、個性的なバー、カフェ、各国レストラン、DVD・CDショップなどが立ち並び、毎晩、地元民だけでなく、中国在住外国人や世界各国からの旅行者たちが集まってくる。
この三里屯南街エリアを「北京のお気に入り」として紹介してくれたのは、188センチの長身に細身のスーツがお似合いの土屋建さん(27)。
ルーフテラス・バー「kokomo」
-- この辺りで気心の知れた友人たちとお酒を飲むのがすごく楽しいです。kokomoから見える景色も好きですね。
ここは、中国でもすごく変わった人たちや人と違う感覚を持っている人たちが集まる場所で、まさしく北京の動物園みたいな場所です。北京という街は、政府のお膝元であるにもかかわらず、文化的な多様性を許容する街で、色んな人たちが集まって、みんなそれぞれ好きなことをやっています。
実は北京って国内の他のどの都市よりもゲイが多く集まる都市としても有名なんです。それだけ文化的にプログレッシブかつ前衛的な街であり、多様性を受け入れられる土壌があるんだと思います。特にこのエリアには、心から楽しもうと思って来ている本能的な人たちが多いので、僕も素に戻って楽しめるし、すごく開放的になれる場所です。
友情を深めるためのお酒が好きだという土屋さんだが、中国でのビジネスは当初お酒で壁にぶつかったという。
-- 中国では、ビジネスの話を始める前に、かならず酒を飲み交わし、友達関係を築かなければならないんです。人間性を理解してもらい、相手に気に入ってもらって初めてビジネスの話ができます。その過程を踏まないと、先方との更なる交渉は難しくなります。
そのため、浴びるように白酒を飲まなければならないことなどしょっちゅうだ。最初は、かけつけの数杯で酔っ払い、ビジネスの話どころではなくなってしまった。いかにしらふを保ちながら、相手の信頼を得るのか?お酒とのつきあい方はこれまでに失敗から色々と学んできたという。
今年の5月からはモンゴル国商工会議所で日本とモンゴル間の海外投資促進の仕事を担当している。モンゴルに滞在して2カ月たったが、まだまだ慣れないことも多いという。
-- モンゴルでも、まずは挨拶変わりに白酒かウォッカ3杯を飲み干すところから始まります。でも、最近はモンゴルの方とはお酒を飲んだあとは、遅くまでつきあわないことにしています。というのも、モンゴルの方はお酒を飲んだあと、とっくみあいの喧嘩をしないと寝ないたちなんです。おそらく闘争本能だと思います。こういう時につくづく日本人との違いを感じますね。
80年代、ある日本人男性と中国人女性が南京で偶然出会い、周囲の猛反対を押し切ってめでたく結婚――。 この二人の間に生まれきたのが土屋さんだ。
南京で生を受け、幼い頃に日本に移った土屋さんは、小さい頃から日中ハーフというだけでなく、日本人と南京人のハーフということで、注目されてきたという。
-- 今まで生きてきて、日本人と南京人のハーフって僕のほかに会ったことないんです。
そして、この日本と南京というマイノリティな組み合わせがその後の土屋さんのアイデンティティ形成に大きな影響を与えた。
ただし、高校までは日本人の典型的なローカルコースを歩んできた。地元の公立幼稚園、小学校、中学校に通い、当然高校も日本で進学するつもりだった。しかし、ちょうどその頃、父親の仕事の都合で、一家で北京に移ることになった。
-- やはり義務教育というのは人間形成に大変大きな影響を与えるようで、中国語を話せるといっても、その時の僕は典型的な日本人でした。和を重んじ、人とぶつかることを避けて自分の意見もあえて言わないような。おそらく、日本での環境や雰囲気から、子供心にもあまり中国色を出さないようにしようと思っていたからかもしれません。通常の日本人以上にマニュアルタイプの日本人だった気がします。
北京では、三里屯から程近い第55中学校内にある国際学校に通った。土屋さんは、ここで大きな洗礼を受けることになる。
-- 僕が通った国際学校はそれこそ動物園のような所で、生徒たちは好きな時間にお菓子を買いに行ったり、好きな時にご飯を食べたりと、様々な国籍の学生が本能のままに行動・主張してました。まるで無法地帯でしたね。なかなか慣れませんでした。でも、ここで如何に自分の意見を伝え、異なる思考や習慣を持つ者同士がお互いに高めあっていける関係性を築くかということを学びました。
今や流暢な中国語、日本語、英語、北京語、南京語を使い分けて様々な国籍の人々とスムーズにコミュニケーションやビジネスを行う土屋さんの姿からは想像できない言葉だ。
しかし、どんなに言葉がうまくなっても、変わらないものがある。
-- 日本にいた時間と、中国にいた時間だとすでに中国にいた時間のほうが長くなってきました。でも、中国人からはやっぱり中国人として見てもらえない。それは、多分、僕の根底に日本人というナショナリズムがあるからなんです。それは、消したくても消せないし、崩せないものなんです。だから、日本人のナショナリズムで、中国に理解を示したい。普通の日本人ではないけれど、そういう思いが強いです。
自分がマイノリティだと自覚しているからこそ、北京が持つ多様性や許容性に引かれるのかもしれない。土屋さんは、北京の魅力について次のように語る。
-- 上海が外見や雰囲気重視だとすると、北京は中身重視だと思います。表現による自由は制約されているはずなのに、みんな好きなことをやって、独特な文化があり、自由な感じを受けます。政治に興味を持っている人も多く、みんな自分の意見を持っています。
北京は自由な感じがすると言うと、中国人には、「俺らは家を買っても、70年で権利がなくなるし、車だって自由に買えない。海外のものを買おうとしてもものすごい税がかかって高いし、海外へ行くにも中国のパスポートでは自由にビザさえ取れない」と言われます。
確かに多くの制約があるし、政府や外部から与えられた自由ではないけれど、もっと人目を気にせずやりたいことをやるという精神的な自由があります。日本にいると周りの目線が気になりますし、発展しすぎたゆえのネガティブなところがある。北京にはそういうネガティブなところがあまりないですよね。
あと北京の人は、食べることや、家族のこと、お金のことを話題にすることが多い。これってまさに人間の本能ですよね。生きるための基本であり、生きる糧を得るための手段です。そういったことを常に考えているのってすごく本能的だと思います。でも、だからこそ、ノイズが入りにくく、ストレートに生きていける。
中国の世界への影響力が日増しに拡大する中、日中ハーフということで、日中関係や両国の人々の考え方などについて質問されることが増えてきた。
-- 中国人だけでなく、ありとあらゆる国籍の人々から色々と聞かれますね。みんなすごく興味あるんですよ。中国も日本も今や世界的に大きな影響力を持つ国ですし、両国の歴史や関係性もすでによく知られているので。
中国人にしてみれば日本人はすごくミステリアスな存在です。中国人は本能的なので、ストレートにものを伝えますが、日本人はストレートではないですよね。だから、日本人の行動についても、なんでそうするのかわからないことが多い。
例えば、W杯で日本のサポーターがゴミ拾いをした件も、どういった文化背景があって、なぜこういうことをするのか?誰
のために、なんのためにするのか?といったことを聞かれることが多い。そうすると、自分の中でもうまく説明しなければならないという使命感みたいなものが生まれてきます。
土屋さんは将来の夢を次のように語った。
-- アメリカ式や中国式ビジネスマナーなどに触れてきたので、それを活かして会社経営などをやりたいですね。その上で、日本と中国のために何かしたいです。もしかしたら、日中どちらかではなく、第3国で日中両国のために何かをするという選択肢もあるかもしれないと考えています。
どちらかの国にいると、やはり最終的にどちらかに偏ってしまいます。でも、どちらか一方を選ぶことはできないし、どちらの国にも良いところと悪いところがある。お互いの言い分もわかるからこそ、どちらの味方もしたくないんです。
将来、土屋さんがどこの国で、何をしていようと、一旦北京にさえ戻れば、北京の文化的多様性を体現した三里屯南街エリアはいつでも暖かく土屋さんを受け入れることだろう。人生を楽しむことに貪欲で、本能的に生きる人々がそこに集まっているかぎり。
<kokomoのデータ>
三里屯後街同里4階・屋上
6413-1019
行き方 地下鉄10号線団結湖駅のA出口から出て、工体北路を西に向かってまっすぐ歩くと、10分程で右手に三里屯VILLAGEの太古里が見えてくる。VILLAGE内のユニクロと、アディダスが入っているビルの間を北へ抜けると、そこが三里屯南街の入り口となる。入り口に向かって右手手前にある同里ビルの4階・屋上。
夜の三里屯SOHO
SOHOと三里屯VILLAGEを隔てる交差点 ここからバー街が延びている 夜は若者でいっぱい
人気カジュアルブランドが多く入っている三里屯VILLAGE南区 この通りは立派な枝ぶりの街路樹が並び緑が美しい
Heaven Supermarket 世界各国のお酒をほぼ市場価格で購入して、その場で飲める。
土屋さんおすすめの麺屋・樂樂 油爆蝦仁清拌麺50元
三里屯VILLAGEに隣接する隅研吾氏がデザインしたデザイナーズホテル「ザ・オポジットハウス(瑜舍)」
<推薦人のデータ>
土屋建さん
●北京在住歴
10年以上
●中国を漢字一文字で表すと?
悠
●中国にあって日本にないもの
本能に対する忠実さ
●中国人に見習うべきところ
バイタリティ、コミュニティを形成する力
●滞在期間中の中国の変化の中で最も感慨深いところ
最近エスカレーターの列が整っていたりする点
●中国にいるからこそ見えてくる日本のいい点とわるい点
良い点 秩序の良さ
悪い点 秩序、効率の良さを求めた故の止むを得ない窮屈感
●中国(北京)に引かれた理由・中国の魅力
政府のお膝元でありながらこの自由さ
●ずばりあなたにとっての中国(北京)とは?
北京は世界で一番好きな都市!
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